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東京地方裁判所 平成8年(ワ)17704号・平8年(ワ)5195号・平8年(ワ)11093号 判決

平成八年(ワ)第五一九五号保険金請求事件(第一事件)

平成八年(ワ)第一一〇九三号債務不存在確認請求事件(第二事件)

平成八年(ワ)第一七七〇四号同反訴請求事件(第三事件)

第一、第三事件原告、第二事件被告 X防水株式会社

右代表者代表取締役 A

第二事件被告、第三事件原告 A

右両名訴訟代理人弁護士 山本隆夫

同 根岸隆

同 久利雅宣

同 増田英男

第一、第三事件被告、第二事件原告 大同生命保険相互会社

右代表者代表取締役 平野和男

第一、第三事件被告、第二事件原告 朝日生命保険相互会社

右代表者代表取締役 藤田譲

第一事件被告 三井生命保険相互会社

右代表者代表取締役 坂田耕四郎

第一、第三事件被告、第二事件原告 明治生命保険相互会社

右代表者代表取締役 波多健治郎

第二事件原告、第三事件被告 日本生命保険相互会社

右代表者代表取締役 伊藤助成

第二事件原告、第三事件被告 安田生命保険相互会社

右代表者代表取締役 大島雄次

第二事件原告、第三事件被告 住友生命保険相互会社

右代表者代表取締役 浦上敏臣

右七名訴訟代理人弁護士 川木一正

同 松村和宜

同 長野元貞

主文

一  第一、第三事件原告、第二事件被告X防水株式会社に対し、第一、第三事件被告、第二事件原告大同生命保険相互会社は、一億五〇〇〇万円及びこれに対する平成七年一一月二一日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を、第一、第三事件被告、第二事件原告朝日生命保険相互会社は、一億五〇〇〇万円及びこれに対する同月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を、第一事件被告三井生命保険相互会社は、二億円及びこれに対する同月二五日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を、第一、第三事件被告、第二事件原告明治生命保険相互会社は、一億円及びこれに対する同月二〇日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  第一、第三事件原告、第二事件被告X防水株式会社のその余の請求及び第二事件被告、第三事件原告Aの請求をいずれも棄却する。

三  第二事件原告、第三事件被告日本生命保険相互会社と第一、第三事件原告、第二事件被告X防水株式会社との間の、別紙一の生命保険契約目録(五)記載の生命保険契約に基づく第二事件原告、第三事件被告日本生命保険相互会社の第一、第三事件原告、第二事件被告X防水株式会社に対する主契約死亡保険金支払債務の存在しないことを確認する。

四  第一、第三事件被告、第二事件原告大同生命保険相互会社と第一、第三事件原告、第二事件被告X防水株式会社との間の別紙一の生命保険契約目録(六)記載の生命保険契約に基づく第一、第三事件被告、第二事件原告大同生命保険相互会社の第一、第三事件原告、第二事件被告X防水株式会社に対する主契約死亡保険金支払債務の存在しないことを確認する。

五  第二事件原告、第三事件被告安田生命保険相互会社と第一、第三事件原告、第二事件被告X防水株式会社との間の別紙生命保険契約目録(七)記載の生命保険契約に基づく第二事件原告、第三事件被告安田生命保険相互会社の第一、第三事件原告、第二事件被告X防水株式会社に対する主契約死亡保険金支払債務の存在しないことを確認する。

六  第二事件原告、第三事件被告住友生命保険相互会社と第一、第三事件原告、第二事件被告X防水株式会社との間の別紙一の生命保険契約目録(八)記載の生命保険契約に基づく第二事件原告、第三事件被告住友生命保険相互会社の第一、第三事件原告、第二事件被告X防水株式会社に対する主契約死亡保険金支払債務の存在しないことを確認する。

七  第一、第三事件被告、第二事件原告明治生命保険相互会社とBとの間の別紙一の生命保険契約目録(九)記載の生命保険契約に基づく第一、第三事件被告、第二事件原告明治生命保険相互会社の第二事件被告、第三事件原告Aに対する主契約死亡保険金支払債務の存在しないことを確認する。

八  第一、第三事件被告、第二事件原告朝日生命保険相互会社とBとの間の別紙一の生命保険契約目録(一〇)記載の生命保険契約に基づく第一、第三事件被告、第二事件原告朝日生命保険相互会社の第二事件被告、第三事件原告Aに対する主契約死亡保険金支払債務の存在しないことを確認する。

九  訴訟費用は、第一ないし第三事件を通じ、これを八分し、その二を第一、第三事件被告、第二事件原告大同生命保険相互会社、同朝日生命保険相互会社、同明治生命保険相互会社及び第一事件被告三井生命保険相互会社の負担とし、その一を第二事件被告、第三事件原告Aの負担とし、その余を第一、第三事件原告、第二事件被告X防水株式会社の負担とする。

一〇  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

(第一事件)

一  第一、第三事件被告、第二事件原告大同生命保険相互会社(以下「被告大同生命」という。)は、第一、第三事件原告、第二事件被告X防水株式会社(以下「原告会社」という。)に対し、一億五〇〇〇万円及びこれに対する平成七年一一月二一日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  第一、第三事件被告、第二事件原告朝日生命保険相互会社(以下「被告朝日生命」という。)は、原告会社に対し、一億五〇〇〇万円及びこれに対する平成七年一一月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三  第一事件被告三井生命保険相互会社(以下「被告三井生命」という。)は、原告会社に対し、三億円及びこれに対する平成七年一一月二五日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

四  第一、第三事件被告、第二事件原告明治生命保険相互会社(以下「被告明治生命」という。)は、原告会社に対し、二億円及びこれに対する平成七年一一月二〇日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

(第二事件)

主文第三項ないし第八項と同旨。

(第三事件)

一  第二事件原告、第三事件被告日本生命保険相互会社(以下「被告日本生命」という。)は、原告会社に対し、二億円及びこれに対する平成七年一一月二〇日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告大同生命は、原告会社に対し、二億五〇〇〇万円及びこれに対する平成七年一一月二一日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三  第二事件原告、第三事件被告安田生命保険相互会社(以下「被告安田生命」という。)は、原告会社に対し、一億九〇〇〇万円及びこれに対する平成七年一一月二一日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

四  第二事件原告、第三事件被告住友生命保険相互会社(以下「被告住友生命」という。)は、原告会社に対し、三億円及びこれに対する平成七年一一月一三日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

五  被告明治生命は、第二事件被告、第三事件原告A(以下「原告A」という。)に対し、一億四五〇〇万円及びこれに対する平成七年一一月二〇日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

六  被告朝日生命は、原告Aに対し、一億円及びこれに対する平成七年一一月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

第一、第三事件は、被告ら七社との間で締結された合計一〇件の生命保険契約の保険金受取人である原告会社及び原告Aが、被保険者である亡B(以下「B」という。)が五階建て建物の屋上から転落死したことを理由として、被告らに対し、右各契約の主契約に基づく死亡保険金並びに傷害特約及び災害割増特約に基づく災害死亡保険金の支払を求めた事案であり、第二事件は、被告らのうち六社が、右各生命保険契約のうちBが転落死する数か月前に締結された六件の契約はいずれも保険金を不法に利得するための手段としてなされたものであるから、公序良俗に違反するものとして無効であり、仮に有効であるとしても、被保険者が契約成立後一年以内に自殺したものであるから、約款の規定により免責されるなどと主張して、原告らに対し、右六件のうち主契約に基づく死亡保険金支払債務が存在しないことの確認を求めた事案である。

一  争いのない事実等(括弧内に証拠を掲げた部分を除き、当事者間に争いがない。)

1  当事者等

(一) 原告会社は、B(昭和九年五月二六日生)が、昭和四二年に設立した防水建築請負を主たる業務とする株式会社であり、B及び同人の三人の子を含めて従業員が八名の小規模会社であった。

Bは、死亡するまで原告会社の代表取締役の地位にあり、Bの死亡後、Bの妻である原告Aが代表取締役に就任した。

(二) 被告らは、いずれも生命保険業を主たる業務とする会社である。

2  Bを被保険者とする生命保険契約の締結

原告会社(代表取締役であるB)は、被告らとの間に、別紙一記載のとおり、平成六年六月に四件の、平成七年五月から七月にかけて四件の、Bは平成七年六月に二件の生命保険契約を締結した(以下、平成六年に締結された四件の生命保険契約を「平成六年契約」と、平成七年に締結された六件の生命保険契約を「平成七年契約」といい、右一〇件の生命保険契約を合わせて「本件各保険契約」という。また、本件各保険契約は別紙一の(一)ないし(一〇)の順にそれぞれを「本件保険契約(一)」「本件保険契約(二)」等という。)(乙五ないし一四、弁論の全趣旨)。

なお、別紙一の生命保険契約目録(三)、(四)、(六)ないし(一〇)記載の各生命保険契約の災害割増特約及び傷害特約(以下、両特約を併せて単に「特約」という。)の内容は、別紙二記載のとおりである(甲二の一ないし四、弁論の全趣旨)。

3  本件各保険契約の約款

本件各保険契約にはいずれも別紙三記載の「重大事由による契約の解除及び保険金の不支払等に関する約款」(以下「本件解除特約」という。)が、平成七年契約の主契約には別紙四記載の「死亡保険金の免責事由に関する約款」(以下「本件免責特約」という。)がそれぞれ定められていた(甲二の一ないし四、弁論の全趣旨)。

4  Bの死亡

Bは、平成七年一〇月三一日午後二時三〇分ころ、埼玉県北足立郡○○町○○○三丁目七番八号所在のY団地(以下「Y団地」という。)八-A住宅一四号棟(以下「一四号棟」という。)の屋上防水工事現場において、屋上から落下し、脊髄損傷等により即死した(以下「本件事故」という。)。

5  一四号棟の屋上には、高さ一五センチメートル、幅一五センチメートルの雨水止めの「へり」(以下「へり」という。)が周囲に巡らされ、工事の安全のため、へりに沿って高さ一メートルあまりの鉄製支柱が約二・一メートル間隔で設置され、その支柱には上下二本の安全ロープ(以下「ロープ」という。)が張り巡らされていた。また、へりから約三〇センチメートル幅の範囲には、防水用モルタル(以下「モルタル」という。)が塗られて間もない状態にあった。

6  原告らによる保険金の請求

原告らは、被告らに対し、本件各保険契約に基づき、次のとおり、合計一九億八五〇〇万円の保険金の請求を行った。

(請求日(平成七年))(請求額)

(一) 被告大同生命 一一月一五日

(1)  本件保険契約(一)につき 一億五〇〇〇万円

(2)  本件保険契約(六)につき 二億五〇〇〇万円

(主契約死亡保険金 一億五〇〇〇万円

定期保険特約死亡保険金 一億円)

(二) 被告朝日生命 一一月二〇日

(1)  本件保険契約(二)につき 一億五〇〇〇万円

(2)  本件保険契約(一〇)につき 一億円

(主契約死亡保険金 二五〇万円

定期保険特約死亡保険金 四七五〇万円

災害割増特約保険金 五〇〇〇万円)

(三) 被告三井生命 一一月一七日

本件保険契約(三)につき 三億円

(主契約死亡保険金 二億円

傷害特約 一〇〇〇万円

災害割増特約 九〇〇〇万円)

(四) 被告明治生命 一一月一四日

(1)  本件保険契約(四)につき 二億円

(主契約死亡保険金 一億円

傷害特約 五〇〇万円

災害割増特約 九五〇〇万円)

(2)  本件保険契約(九)につき 一億四五〇〇万円

(主契約死亡保険金 九〇〇〇万円

傷害特約 五〇〇万円

災害割増特約 五〇〇〇万円)

(五) 被告日本生命 一一月一四日

本件保険契約(五)につき 二億円

(六) 被告安田生命 一一月一五日

本件保険契約(七)につき 一億九〇〇〇万円

(主契約死亡保険金 九〇〇〇万円

傷害特約 一〇〇〇万円

災害割増特約 九〇〇〇万円)

(七) 被告住友生命 一一月七日

本件保険契約(八)につき 三億円

(主契約死亡保険金 二億円

傷害特約 一〇〇〇万円)

災害割増特約 九〇〇〇万円)

7  本件解除特約に基づく契約解除の意思表示

被告らは、原告らに対し、平成八年二月一三日、本件解除特約に基づき本件各保険契約を解除する旨の意思表示をした(乙四二の一、二)。

二  争点

1  本件事故は、Bが誤って転落したことにより発生した不慮の事故であるのか、それともBの故意(自殺)によるものであるのか。また、特約に基づく請求において、本件事故が不慮の事故であることは原告らが立証責任を負担すべきものか、それとも被告らが不慮の事故でないこと(Bの故意によるものであること)について立証責任を負担すべきものか。

2  本件事故が不慮の事故であるとして、事故発生につきBに重過失があったか。

3  本件各保険契約の有効性等について、(一)原告会社及びBが本件各保険契約を締結したことが公序良俗に違反するか、(二)被告らがした本件解除特約に基づく本件各保険契約の解除は有効か、(三)本件各保険契約は商法六五六条、六八三条一項により失効したといえるか。

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1(本件事故の原因等)について

(原告らの主張)

(一) 本件事故によるBの死亡は、次のとおり、明らかに不慮の事故によるものである。

(1)  判断の存在

本件事故直後、現場を実況見分し、死体をも実見した警察官は、事故直後から死体見分調書(甲四)に「屋上から体のバランスを崩し転落し」と記載して事故死であると認定し、死体を検案した医師も死亡証明書(甲三七)に「不慮の外因死」「転倒・転落」と記載して事故死であると判断している。

(2)  事故日について

<1> 本件事故日は、Bにとって初孫である二男C2の長女が、出産先の病院からB宅に帰宅して、お祝いをする予定であった。Bは、殊のほか初孫の誕生を喜んでいたのであるから、このような特別の日に、被告らの主張によれば一か月以上も自殺の具体的方法を検討して来たことになるBが、自殺を敢行するはずがない。

<2> 一か月以上も自殺の具体的方法を検討していた者は、予め自殺の場所、方法を検討し準備するのが通常であろうが、Bが当日Y団地に行くことが決まったのは、数日前のことであるから、Bが現場の状況を予め知っていたことは考えられず、特に一四号棟屋上へは、梯子で昇るしかなく、同人が屋上の状況を予め知っていたとも考えられない。とすると、Bは、事故を装って自殺する場所の状況も分からず、事故の装い方も予め準備することもできないまま、突然、事故を装ったこととなるが、このような自殺はあり得ない。

<3> 本件各保険契約の約款には加入後一年経過後の自殺には自殺免責の適用はなく、死亡保険金を支払うとの条項が存在する。

従って、Bが保険金目的の自殺を考えた場合、どうせ自殺をするのであれば平成六年度加入分の六億円だけではなく平成七年度加入分の七億八〇〇〇万円も取得できる日、即ち平成八年七月一日以降の日を選択する筈である。

なお、この場合、平成八年七月一日まで保険料を支払わなければならないが、当時のBには後記のとおり預金や換価可能な株式もあり、右の支払は充分可能であった。

(2)  事故の場所・時刻

事故を装って自殺するのであれば、他者の目撃を避けるのが、通常人の判断であるところ、Bは、次のとおり他者の目撃可能性の高い時刻・場所から転落している。

<1> 本件事故当時、一四号棟屋上には、原告会社従業員二名、その下請会社の従業員二名の計四名が作業中であり、更に見通しのきく一二号棟屋上でも原告会社関係の四名が作業中であった。

<2> Bが転落したのは、三〇戸以上の居宅の南側窓に面した方向であり、転落時刻(午後二時三〇分ころ)は、一三号棟の団地住民が布団、洗濯物の出入れのため、南側ベランダに出る可能性の大きい時刻であるから、他者による目撃の可能性が高い。

これに対して、反対側は、広い公園であるから、事故を装うため目撃を避けるには、この方向への転落を考える筈である。

<3> Bの落下地点は、植込みのある土の上であり、確実に死に至るとは限らないから、計画的な自殺を行う場所とは考えられない。

(3)  事故態様

<1> 事故態様の詳細については確定はできないが、モルタルの上にBの左足の踵部分の跡が、靴の後ろがへり側に向いてついていたこと、Bの左大腿部内側の付け根部分に拳大の擦過傷があったこと及び、Bの骨折等の損傷状況等によれば、Bは、南側を向き、へりの方向に後ずさりをしていた時に塗って間もないモルタルに足を取られ(おそらく滑って)、身体のバランスを失い、へりとロープ(上下に張られた二本のロープのうち下段に張られたもの)の間から中腰に近い海老状の姿勢のまま(このとき、体の一部がへり上部のコンクリートと接触し摩擦の痕跡を残したと考えられる。)落下し、地上には両足がほぼ同時に着地したものと考えられる。

なお、Bが後ずさりをしてモルタルを踏んだのは、落下地点の近くに、カメラのカバーが開けられ、撮影可能な状態で落ちていたことに照らし、同人が写真を撮ろうとしてカメラのファインダーを覗きながら徐々に後ろ向きで(南側に向いて)へりの方へ近づいて行ったからであると推測できるが、被写体が秩父山脈方向の風景であったか(Bは写真の撮影を趣味としていたところ、一四号棟の屋上の南側は高い建物がなく、本件事故の当日は天気が良く紅葉期の秩父連山を見ることができた。)、防水作業状況であったかは特定できない。

<2> これに対し、被告らの主張する自殺説に立って飛び降りる態様を強いて説明するとすれば、Bが自殺を事故死に見せかけるために、故意にモルタル上に足跡を付けた後態勢を立て直して飛び降りたか、へりに後向きに立ち、モルタルに足を滑らせた様な姿勢で後ろ向きで転落したかということになる。

しかし、前者の態様は、着地が死に至る可能性の低い足からなされていること、後者の態様は、後向きにモルタルを靴の踵で踏むという行為は、滑って思うように行動できず、体のバランスを崩して屋上で尻餅をつくか、転倒する可能性の方が転落する可能性より高いと考えられるばかりでなく、へりから四、五〇センチメートルもあるところで後向きになることそのものも距離感がはかれず、仮に事故を装ったとしても、確実に死ぬというもう一つの最も重要な目的達成の確率は非常に低くなることから、いずれも事故死を装って自殺を図るという極めて緻密かつ巧妙な計画との合理的統一性を欠いている。

(4)  動機等

<1> 原告会社の経営内容は、良かったといえる状態ではなかったものの、これはいわゆるバブル経済が崩壊し、原告会社の属する建設業界が深刻な不況に陥ったことの影響を受けたもので、この程度の負債を抱えて事業を継続している企業は数多くあり、原告会社に特有なものではない。

原告会社は、材料の仕入先への支払、下請代金や従業員の給与支払あるいは借入金の弁済、保険料等のあらゆる支払を滞らせたことはなく、債権者等の支払催告がなされたこともなかったのである。

したがって、Bが自殺を決意する程差し迫った状況に置かれていたとは到底考えられない。

<2> 原告会社、B、同人の家族等には、経済上、健康上あるいは人間関係上、Bが自殺に追い込まれるような窮迫性のある事情等は一切なかった。

<3> Bは、遺書を書き残したり、自殺をほのめかすような言動をしたことはない。

「計画的自殺」をする場合には、本人には、何かしらの変わった言動が現れるのが常識であろうが、Bの事故当日及びその直前ころの言動は、通常と全く変化なく、同居している三男のC3も全く異常を感じていなかった。

(5)  本件各保険契約の加入経過・内容等について

<1> 本件各保険契約は、そのほとんどが被告ら保険会社の募集職員の勧誘によって締結されたものであり、本件保険契約(一)、(二)、(五)の各契約においては、災害割増特約は付されていない。

<2> Bは、本件保険契約(一〇)において、被保険者の余命が六か月以内と判断されるときは死亡保険金の限度で最高三〇〇〇万円が右判断時に受取人に支払われる旨のリビング・ニーズ特約に加入するとともに、終身振込みの終身保険のほか、一〇年間の定期保険とともに八〇歳まで(一九年間)の災害割増特約を希望していたのである。

<3> 原告会社は、B夫妻、実母、義母、八名の従業員、約三〇名の下請従業員の殆どの生活が依存している会社であり、原告会社の将来を保障する責任はBが負っていたのであり、Bが本件各保険契約を締結したのは、同人が平成六年春に肝臓に問題ありとの理由で三億円の生命保険に加入できなかったことから健康が万全でないことに不安を感じ、会社の第一線を退こうと考えていた六五歳までの間に原告会社が窮地に陥ることを懸念していたためであると考えられる。

また、本件各保険契約にかかる付保金額でもBに万一のことがあった場合には、原告会社が必要な資金としては十分でない。

したがって、Bが本件各保険契約を締結した動機・付保金額は、極めて自然である。

<4> また、本件各保険契約の平成七年以降の支払は、原告会社における役員報酬、交際費等の経費の減額と売上の回復等により十分に可能であったのであり、また、保険料の支払が原告会社の存続の足枷となるときは、単に必要な範囲内で保険の一部を解約すれば足りるのである。

(二) なお、特約に基づく請求について、保険金請求者である原告らが特約にかかる保険事故(不慮の事故)であることについて立証責任を負担すると解すべきではなく、保険会社である被告らにおいて事故が故意に基づくものであること等の免責事由について立証責任を負担しているものと解するのが相当である。したがって、仮に、本件事故が自殺か不慮の事故かを判別できない場合であっても、被告らに自殺の立証責任があるものとして保険金を支払わせるのが妥当である。

(被告らの主張)

(一) 本件事故は、後記の本件各保険契約の異常性及び原告会社の経営状況に関する事情のほか、以下の事情からすると、不慮の事故ではなく、Bが原告らに保険金を取得させることを専らないし主たる目的として転落死したもので、自殺によるものというべきである。

(1)  転落態様について

現実の転落形態を特定することは困難であるが、少なくとも原告ら主張のごとき後ろ向き転落はあり得ないことであり、Bの転落が故意によるものでない態様で発生したものと考える余地はない。

あえて転落態様を主張するとすれば、Bは半乾きのモルタル面に踵のへこみ以外の傷を付けないように、ロープに向かって三〇センチメートル以上手前に立ち、約九〇度右に向き、腰を落とし、蛙飛び若しくはウサギ飛びの姿勢をとった上で、軸となる右足をモルタルのない面又は乾いたモルタル上に置き、左足をへりの外に出し、へりが左股間部(付け根)付近に達したとき、身体を下の方向へ約九〇度回転させ、(その際左手はへり上に、又右手はロープを上に押し上げたかもしれない)両足がへりの外に出て、更に上半身がロープの外に出たと同時に落下したか、一旦へり上に腰掛ける格好になり、その後落下したものと考えられる。

(2)  目撃可能性について

原告らは、屋上作業員、一三号棟居住者等の目撃の可能性があると主張するが、屋上作業をしている作業員がへり上にいた(座っていようが、立っていようが)としても、向かい側居住者は何ら不信に思わないであろうし、屋上作業員は下を向いて作業しているのであり、かかる状況はBも十分認識していた筈である。本件において結局目撃者は誰一人として把握できなかったことからも、目撃可能性を重視すべきではない。

(3)  動機の有無について

Bは、原告会社の経営状況等からして、早晩原告会社が破綻することを確信して、本件事故を惹起させているのであり、自殺と判断された場合一番目論見がはずれるのはB自身であることからしても、誰もが追いつめられたと判断する様な状況で、実行に着手することはない。

なお、早晩原告会社が破綻することは、Bの転落死後、原告会社の代表者に選任された原告Aが、平成八年三月で支払不能になると宣言していることからも明らかである。

(二) なお、特約に基づく請求については、保険金請求者である原告らにおいて特約にかかる保険事故(不慮の事故)であることについて立証責任を負担しているものと解すべきである。したがって、原告らにおいて本件事故が不慮の事故であることについて立証できない以上、特約に基づく請求は棄却されるべきである。

2  争点2(重過失の有無)について

(被告らの主張)

仮に、本件事故(Bの本件転落死)が自殺でないとしても、重大な過失によるものである。すなわち、本件事故が、Bが塗りたてのモルタルに足を滑らせ、過ってロープをすり抜けて転落したものであるとしても、防水工事会社の責任者であるBはモルタルが塗りたてか否かは十分に把握できる筈であり、かかる塗りたてのモルタル上に足を踏み入れる行動は極めて異常であること、転落現場であるY団地一四号棟屋上に設置されていたロープ及び支柱には何らの損傷もなく、支柱取付部においても何らの異常は認められていないこと等に照らし、ロープが設置されているとはいえ、高さ一四・一メートルの高所の突出部分において発生した本件事故は、被保険者であるBが合理的に推認される枠を超えた極めて異常かつ危険な行動をしなければ、常識的に起こり得ないものであり、Bには重大な過失があったものといえる。

(原告らの主張)

Bは、単にモルタルに足をとられ、バランスを失っただけに過ぎず、本件事故につき、Bに故意に近い過失である重過失はない。

3  争点3(一)(公序良俗違反の成否)について

(被告らの主張)

生命保険契約は、射倖性のある契約であり、被保険者の偶然の保険事故による保険金受取人の経済的資金力弱化の回復という正当な目的のために利用される限りで公序良俗違反性が阻却されるのであって、不正な利益を得る目的で締結される保険契約は公序良俗違反により無効とされるものである。

また、生命保険契約のように射倖性のある契約について社会通念上合理的と認められる危険分散の限度を著しく超える付保を認めると、自己もしくは第三者の生命を弄んで不労の利得を得ようとする者が生じて保険制度の根幹を揺るがすことになるから、そのような契約は、公序良俗に違反するものであり、無効というべきである。

そして、本件各保険契約は、次のとおり、社会的に合理的な危険分散の為に加入する保険としては明らかに限度を超え、保険金の不法利得目的を達成する為の不可欠の手段として締結されたものであり、かかる契約は公序良俗に反し無効というべきである。

(一) 本件各保険契約の異常性

(1)  保険金額について

被告らと原告会社及びBとの間のBを被保険者とする生命保険契約(本件各保険契約を含む一一件)の保険金額は、平成七年七月一日当時、合計二一億三五〇〇万円(主契約に基づく死亡保険金合計一四億八〇〇〇万円、特約に基づく災害死亡保険金合計六億五五〇〇万円)であり、右に傷害(損害)保険五件の保険金合計額四億五〇〇〇万円を加えると総額にして二五億八五〇〇万円の巨額にのぼり、生命保険の保険料のみで月額二二一万四五六八円にも達していた。右は、原告会社の平成六年度、第二八期の年間売上高約四億三〇〇〇万円の六倍にも達するものである。

(2)  集中加入について

右保険契約の加入経過について見るに昭和五七年八月一〇日に締結された被告日本生命の定期保険特約付き養老保険(以下「養老保険」という。)を除いて、平成六年四月中旬から五月末の間(平成六年契約)、平成七年三月末から六月中旬の間(平成七年契約)に、集中して申込みがなされ、更に右各生命保険の成立後四件の傷害(損害)保険(保険金合計額三億円)が集中して締結されている。

(3)  保険の種類について

本件各保険契約のほとんどが、貯蓄性のない期間五年の定期保険(低コストで高額保険金を準備できる。)となっており、通常は付加される入院給付金特約等は一切ないものであった。

(4)  加入態様について

本件各保険契約は、次のとおり、そのほとんどがBの自主加入申出によるものである。

<1> 平成六年契約は、平成五年一二月「他社が切れた」との虚偽の事実を理由に生命保険の加入を意図したことがきっかけとなったものであるが、結局これが不成立となるや、その原因となった肝機能の回復を待って平成六年四月一九日から同年五月三〇日までの間に次々と申込みをなしたものであり、これらは全てBの自発的申込みによるものであった。

<2> 平成七年契約は、たまたま被告日本生命がいわゆる転換契約の勧奨訪問をなしたのがきっかけとなっているが、これとて担当営業職員の勧奨には全く耳をかさず、掛け捨ての定期保険に固執し、平成六年契約の保険と同様の契約形態を強く求めたのであり、時を同じくして、Bは、突然、面識のない被告安田生命に電話し、被告大同生命のダイレクトメールにも直ちに反応して申込みをなし、被告住友生命には息子の保険に関する電話に対して自己を被保険者とする契約に積極的に加入したいと述べて申込みをしたり、他社付保状況について虚偽の申告をするなどし、Bの積極的かつ意図的な加入申込みがなされている。なお、被告朝日生命については平成六年度契約締結後も担当職員が保険勧誘のための訪問を継続していたが、一年を経過した後、被告明治生命への自発的申込みに合わせた時期に契約締結の申込みをなしているのである。

(二) 原告会社の経営状況等

(1)  原告会社は、平成四年度、第二六期以降、平成五年度、第二七期にわずかに利益を計上するも、ほぼ一貫して大幅な赤字基調であり、平成六年度四月から代表者の報酬や従業員の賞与を大幅カットしたものの、結局、平成六年度、第二八期においては、三三二〇万四九一三円の当期損失を計上し、累積損が一億円余という状態にあり、平成七年度、第二九期上期においても約三〇〇〇万円の損失計上が避けられないことは、B自身が十分認識していたはずである。

実際には、原告会社は、平成七年度、第二九期には、六五一万一九七二円の当期利益を計上しているが、これは平成八年二月二六日被告日本生命が四九〇〇万円を仮払いした結果であり、実質上は大幅な赤字であり、本件事故が起きる直前の平成七年九月一九日に、東京三菱銀行(旧三菱銀行)から四〇〇〇万円の緊急融資を受けていた。

(2)  一方、原告会社の生命保険料負担は、平成六年六月以降年額一一六六万九三六四円であったものが、平成七年七月以降年額二六五七万四八一六円となっている。

(3)  右のように経営の改善の見込みが当面認められない状況で赤字の上積みをするだけである高額の右保険料を長期間継続して支払っていくことは到底不可能であり、仮に支払うことができたとしても、かかる高額の保険料を支払い続けることに見合った利益は存在しないから、正常な経営者の経営判断の枠内では到底理解できるものではない。

(三) 原告会社とBとの関係

原告会社のような個人会社においては、その代表者と会社は経済的に一体のものであり、契約の有効性を判断するにつき、区別することはできない。

なお、B自身にも七〇〇〇万円を超える個人債務がある。

(原告らの主張)

(一) 被告らの主張は結局のところ被保険者をBとする保険契約に基づく保険金額が「合理的な危険分散の限度を著しく超える」ということにつきると思われるが、被告らは、被告らが「合理的な危険分散の限度」と考える付保金額もその算出根拠も全く明らかにしていないし、そもそも右限度額を超えることがいかなる公序良俗に違反するのかについても、明確にしておらず、主張自体失当といわざるを得ない。

すなわち、付保額が高額であること自体で公序良俗に反するとすれば、第一に何を基準として高額と評価するかの基準が不明確であり、第二にどの額から公序良俗に反するのかも不明確である。その結果、保険契約者の側から見れば、一体付保額をいくらとすれば、公序良俗に反しないか不明で、全く法的安定を欠くこととなり、保険の契約を安心して行えないとととなる。

(二)(1)  仮に、高額付保が、公序良俗上問題になるとしても、付保額が異常に高額か否かは、基本保険金額を基礎とすべきであり(被告らが災害特約等に基づく保険金を加算して主張しているのは、故意に巨額であると印象づけようとするものである。)、また、社会経済の実体を見据えて議論されるべきである。

本件の場合、基本保険金額を基礎とすれば、原告会社を保険契約者兼受取人とするものは合計一七億九〇〇〇万円、Bを保険契約者、原告Aを受取人とするものは合計九二五〇万円に過ぎない。

そして、保険金に関する課税率が五五パーセントであること、保険会社の顧客勧誘用の資料(乙三〇)に基づき、Bに万一のことがあったときの原告会社の必要資金を試算すると一七億五〇〇〇万円となることに照らしても右一七億九〇〇〇万円の付保額は当然であって何ら異常ではなく、また、Bの家族用の個人保険として右九五〇〇万円程度の保険金額は問題とするに足らない。

(2)  また、Bは、息子三人が原告会社で働いていたが、三人とも未だ一人前にはなっておらず、同人に万一のことがあれば、たちまち会社の経営に支障を来すことから、扶養家族である妻(原告A)、子供三人、Bの母と原告Aの母(八九歳と七八歳)のほか、従業員八名、下職とその家族が生活していけるようにと考えて本件各保険契約を締結したものであり、右目的からすると、本件各保険契約にかかる保険金額が高額とはいえない。

(三) 被告らは、原告会社及びBが本件各保険契約等にかかる保険料の支払を継続することが不可能であったと主張するが、次の各事情からすれば、原告会社及びBが平成七年以降の保険料を支払うことは、十分に可能であった。

(1)  原告会社の借入金は三億円程度で、危機的状況にはなく、現に、全保険の保険料、借入金を約定どおり返済してきていたこと。

第二六期、第二八期には不況の影響で赤字を出しているが、売上げは横這い又は上昇しており、危機的状況にあったとはいえないこと。

(2)  平成七年九月末日当時、取引銀行の借入元金が返済により六六七三万六〇〇〇円減少し、その分新たな借入枠が存在していたこと。

(3)  Bは、自宅及びマンション(妻である原告Aとの共有であり、原告会社事務所として賃貸しているもの)を所有しているほか、東京三菱銀行に担保に入っていない個人名義の定期預金一四〇〇万円を有していたこと。

(4)  原告会社は、資産としてNTTと日立電気の株式を有しており、取得価格は一億〇四三五万九二七五円であったことからすると、いざとなれば、これを担保に融資を受けるなり、売却して資金を作ることは可能であったこと。

(5)  原告会社では、平成六年四月から人件費を前年比で年九六〇万〇五五五円削減することにより保険料の支払原資を確保していること。

(6)  Bは、保険料の支払を他の諸経費支払より重視しており、原告会社及びBの資産状況等からすると、更なる経費等の削減によって保険料の支払をすることは十分可能であったこと。

(四) また、本件各保険契約は、いずれも各被告の設定した保険金限度以内で締結されていること、本件で保険料の支払が遅滞したことは一度もないこと、原告らが被告らの窮状を利用し、あるいは違法手段を使って契約を締結した事実もないこと等に照らしても、何ら公序良俗に反するものではない。

4  争点3(二)(本件解除特約に基づく解除の有効性)について

(被告らの主張)

本件各保険契約は、社会通念上許される危険分散としての限度を著しく超えたものであること、かつ、原告らは継続して保険料を支払っていける余裕など全くなかったこと、更に選択された保険の種類、集中的な加入状況、通常付加される入院給付金特約等がないこと、原告らがかかる過大集中加入を合理的に説明できないでいることに照らし、Bが専ら不慮の事故を装って保険金を取得せしめんとの意図のもとに、締結したものと考えざるを得ないのであって、おそくとも最終の傷害(損害)保険契約の成立日である平成七年九月二六日の段階で、Bが保険制度を濫用して、専ら不当な利得を得んとしていたことは明白であり、これは、本件解除特約に定められている「契約を継続することが期待できない」重大事由に当たるというべきである。

(原告らの主張)

(一) 被告らは、Bが、事故を装った自殺を目的として保険契約を締結し、計画的に自殺したことを理由に本件解除特約に基づく契約の解除を主張しているところ、本件が事故であることは明白であるから、右主張には理由がない。

(二) また、被告らは、契約締結時においては、保険金額がかなり高額であるとはいえ、何ら問題なく引受基準に合致するものとしてこれを引き受け、保険契約者である原告会社及びBにおいては、約定の保険料を一回の遅滞もなく支払ってきているものである。

保険者である被告らにおいて、契約を有効に存続させ、保険料を取得していながら、保険事故が発生するや保険金の支払を拒絶することは信義則に反するというべきである。

5  争点3(三)(危険の著増による失効の有無)について

(被告らの主張)

(一) 商法六五六条、六八三条一項の危険著増による失効は対保険者に対する信頼関係を破壊し、被保険者らが生命保険契約を不当目的に利用しようとする背信行為があったときに、これに対する制裁として契約の自動失効をもたらすものである。同条項の「危険」はいわゆる道徳的危険も含まれるものである。

(二) 本件において、前記のとおり、原告会社は保険料の継続的支払が不可能であるにもかかわらず、生命保険及び傷害(損害)保険を集中的かつ過大に付保し、専ら不慮の事故を装って保険金を原告らに取得させようとしていたのであり、おそくとも最終の傷害(損害)保険契約の締結の時点(平成七年九月二六日)では右事情が明らかになった。

つまり、保険契約加入という保険金詐取の準備段階完了により、いつ保険事故が誘発されてもおかしくない状態に至り、主観的には被保険者の内心においていわば実行時期を見計らう心理状態が出現したことになり、道徳的危険が著しく増加した状況が存在していたのである。

このような状況が存在し、それが判明していたならば、被告ら保険者は本件各保険契約の引受けを拒絶することは明らかであり、前記最終の傷害(損害)保険契約締結の時点で被保険者の責に帰すべき事由により著しく危険が増加し、商法六五六条、六八三条一項により本件各保険契約は失効したものである。

(三) 本件各保険契約の約款上は責任開始日から一年を経過した被保険者の自殺については保険者の免責がなされていないが、商法六五六条、六八三条一項の危険著増による失効は、保険者に対する関係において信頼関係を破壊し被保険者らの生命保険契約を不当目的に利用せんとする背信行為に対する制裁として契約の自動失効をもたらすもので、保険契約の全期間にわたり適用されるべきものであり、危険著増による失効と右約款とは適用次元を異にするものであるから、責任開始日から一年を経過した場合において危険著増による失効の規定を適用したからといって、同約款と何ら矛盾するものではない。

(原告らの主張)

(一) そもそも生命保険契約には、いずれの約款にも「契約の継続中にいかなる職業に転じ、またはいかなる場所に転居し、もしくは旅行しても会社は契約を解除せず、また特別保険料を請求しないで契約上の責任を負う」との規定が存在する(勿論本件各保険契約にも存在する。)が、このことは、いかなる転職、転居及びいかなる場所への旅行に匹敵する危険の著増が考えられないことから危険の著増を問題としない趣旨であり、商法第六五六条、同六八三条一項の適用は排除されているというべきである。

(二) 商法六五六条、六八三条一項の危険の著増の「危険」にはいわゆる道徳的危険は含まれない。しかるに被告らは、その主張の危険が道徳的危険であることを明言しており、本件には右規定の適用はない。

(三) 仮に道徳的危険の著増が右規定の危険の著増に含まれるとしても、被告らの推認したBの心理状態や保険加入の意図は全く事実と異なっており、これを前提とした主張は認められない。

(四) 被告らの危険の著増の主張は、契約の約款を無視した信義に反するものである。

(1)  保険契約は、保険を業とする保険者が作成した統一約款に基づき保険者と不特定多数の保険契約者との間で締結されるものであるから、保険者は保険に無知な保険契約者の立場を配慮し、保険契約上予め予測される事項、特に保険金の支払条件に関する事項については、可能な限り約款に規定し、それができない場合には、契約時に口頭で告知して保険事故発生時に保険契約者又は保険金受取人が、全く予測しない事由で保険金が支払われないことがないように努める義務が存在する。

(2)  しかるに被告らは、原告会社及びBとの保険契約の約款に規定せず、口頭でも告知していないにもかかわらず、原告らが保険金の請求を行うや突如として原告らの付保金額を問題とし、それが多額であるとして、危険著増による契約の失効を主張してきたものであり、到底認められない。

(3)  原告会社及びBとしては、契約時に被告らから一言、保険の種類を問わず付保金額の合計額が多額になれば、危険の著増に該当するとして全契約の失効を主張することがある旨を知らされていれば、当然加入金額に注意を払い、保険者から危険の著増を主張されないように対処したことは明らかである(もっとも危険著増に該当する金額が明示されなければいくらまで加入してよいかの判断は困難であるから、被告らは、金額まで明示すべきである。)。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件事故の原因等)について

1  前記争いのない事実等のほか、証拠(甲四、六、一八ないし二二、甲二三の五、六、甲二四ないし二八、三二、三四、三五、三六、三八、四三、四六、四八、四九、五四、五六ないし六一、乙一ないし三、五ないし二二、二六、乙二七の一、三ないし六、八、一三、一五、乙三〇、四三、証人D)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) B及び原告会社の状況等

(1)  B(昭和九年五月二六日生)は、昭和三八年八月二六日、原告Aと婚姻し、同原告との間にC1、C2、C3の三人の男子をもうけるとともに、昭和四二年七月二八日に防水建築請負を主たる目的とする原告会社を設立し、その代表取締役として本件事故により六一歳で死亡するまで経営全般を取り仕切ってきた。

(2)  原告会社では、本件事故当時、専務のIが営業と下職関係を担当し、長男のC1が営業の見習い、次男C2と三男C3が現場の監督を行っていたほか、他に従業員四名を雇用していた。

(3)  原告会社の経営状態等は、平成二年度、第二四期においては、売上高が四億〇〇四六万八六八一円、当期利益が一七二万四二四三円、当期未処理損失が四七二六万八二〇七円(販売費及び一般管理費としての保険料支払額は三三八万三五一一円)、平成三年度、第二五期においては売上高が四億九八六六万七〇九六円、当期利益が八四五万一七七六円、当期未処理損失が三八八一万六四三一円(保険料支払額は三九二万七二二八円)、平成四年度、第二六期においては、売上高が三億六五六六万四八一二円、当期損失が三六三二万八九二五円、当期未処理損失が七五一四万五三五六円(保険料支払額は四二一万三〇九二円)、平成五年度、第二七期においては、売上高が四億七一九九万三〇六八円、当期利益が四一五万八七五七円、当期未処理損失が七〇九八万六五九九円(保険料支払額は四三七万二九〇六円)、平成六年度、第二八期においては、売上高が四億三〇二二万四二九〇円、当期損失が三三二〇万四九一三円、当期未処理損失が一億〇四一九万一五一二円(保険料支払額は一三二六万八〇四六円)、平成七年度、第二九期においては、売上高が三億三八六一万五九四九円、当期利益が六五一万一八七二円、当期未処理損失が九七六七万九六四〇円(保険料支払額は一六四九万〇三八三円)となっていた。

そして、右平成六年度、第二八期には前年度と比較して役員報酬、従業員給料、従業員賞与などの人件費を七五四万円減額しているにもかかわらず、三三二〇万円余りの当期損失を計上したこと(なお、平成六年契約の締結により販売費及び一般管理費のうち、保険料が四三七万二九〇六円から一三二六万八〇四六円に増加している。)から、その経営状態はかなり厳しい状況にあった。

(4)  また、原告会社の平成七年度、第二九期上半期(四月から九月までの間)の業績は、約二七八七万七七九〇円の営業損失計上が避けられない状況にあり、実際の同期の決算においては、当期利益として六五一万一八七二円計上されたものの、右利益は原告会社を債権者、被告日本生命を債務者とする当庁平成八年(ヨ)第六三三号仮払仮処分命令申立事件について、同原告・被告間で平成八年二月二六日成立した和解に基づいて同被告が原告会社に対して四九〇〇万円を支払ったことによるものである。

(5)  原告会社の借入金は、平成六年度末において二億七一九四万四三八五円、平成七年度末において二億四三五一万四四九四円に達しているところ、特に平成七年度には、平成七年九月一九日に東京三菱銀行(旧三菱銀行)から四〇〇〇万円の緊急融資を受け、さらにB自身から前期からの繰越債務である三五六二万四三八五円に加えて、同年八月二一日から同年一〇月二〇日までの間に四回にわたり合計二〇〇〇万円の融資を受けるとともに、同年一一月一六日に、原告Aの弟であるE(Bの義弟)から前期からの繰越債務である二二〇〇万円(ただし、二〇〇万円は同年九月一三日に返済されている。)に加えて一〇〇〇万の、C3から三三二万六一〇九円の融資を受けることにより資金繰りをしなければならない状況であった。

(6)  なお、原告会社の経営状況等については、Bが死亡した後に原告会社の代表取締役となった原告A自身が、平成八年二月当時、原告代理人に対し、原告会社の同年二月以降の予定収支は、平成八年二月は予定収入が三二〇三万円であるのに対し予定支出は四二五九万六二〇二円、同年三月は予定収入が二八八六万円であるのに対し予定支出は四〇四六万八九二三円、同年四月は予定収入が一九三九万円であるのに対し予定支出は四三八九万四八四九円、同年五月は予定収入が一八五二万円であるのに対し予定支出は四五八二万五五八八円であり、原告会社は不動産を所有しておらず、Bと原告Aが共有していた不動産は既に担保に入っており、更なる借入れは不可能な状態であり、原告会社は三月以降支払不能となることが明らかであると説明していた。

(二) 保険加入状況等

(1)  Bは、昭和五七年八月に被告日本生命の養老保険(養老満期保険金は一〇〇〇万円、定期保険による死亡保険金は九〇〇〇万円、災害割増特約による災害死亡保険金は五〇〇〇万円)に加入した後、右養老保険以外の生命保険に加入しようとしなかったが、平成五年一二月ころあるいは平成六年春ころ、かねて保険代理店として付き合いのあった株式会社第一代理店インシュアランスコンサルタントのFに対し、「他社(の生命保険)が切れたので付き合う。生命保険の普通死亡のみで、障害特約はいらない。三億円の加入がしたい。」など話し、同人から保険会社であるアリコの紹介を受けたが、血液検査(肝機能検査)の結果、肝臓に問題があるとされ、同社との間に右のような高額の保険には加入できないと言われたことから、更に被告大同生命の生命保険にAIUの傷害保険がセットされた保険の紹介を受けて同年四月一九日、同被告に対し本件保険契約(一)の申し込みをし、同被告との間に右契約を締結し、その後同年五月には、被告三井生命に対し本件保険契約(三)、被告朝日生命に対し本件保険契約(二)、被告明治生命に対し本件保険契約(四)の申込みをし、右各被告との間に右各契約を締結した。

(2)  Bは、平成七年三月ころ、原告会社の事務所を訪問した被告日本生命の生命保険契約の営業担当職員(申込取扱者)から、養老保険を下取りして二億円の入院特約を付加した定期保険付終身保険等を勧められたが、「昭和五七年の契約をいじくるのはいやだ。終身保険部分はいらない。保険期間は長いのより、短いものを掛け捨てで月々三〇万円位で。」などと言って、同被告との間に本件保険契約(五)を締結し、その後同年四月には被告安田生命に対し本件保険契約(七)、被告大同生命に対し本件保険契約(六)、被告住友生命に対し本件保険契約(八)の申込みをし、同年六月には、被告朝日生命に対し本件保険契約(一〇)、被告明治生命に対し本件保険契約(九)の申込みをして右各被告との間に右各契約を締結した。

さらに、Bは、その後同年八月七日から九月二六日にかけて五件の傷害(損害)保険契約の申込みをし、東京海上火災保険会社等との間に傷害(損害)保険契約を締結した。

なお、Bは、被告住友生命に対し本件保険契約(八)の申込みをするに際し、同被告の営業担当職員に対し「自分は保険に加入していない。生命保険に入りたい。」などと言った上で、同職員が勧めた保険(入院給付金特約のある定期付終身保険と同じく入院給付金特約のある定期保険)について「定期付終身保険は保障の割に保険料が高い。掛け捨ての保険で、期間は三年から五年の短い方がよい。入院特約は必要ない。AIU保険会社に一億五〇〇〇万円加入はしているが、保障が足りない。定期保険の二億円の契約がよい。入院特約は健康に自信があるから不要である。」などと希望を述べていた。

(3)  本件各保険契約は、いずれもB自身が家族等に事前に相談することなく積極的に加入手続を行ったものであり、契約締結後にも家族に一切報告していない。また、保険の種類についても、右のとおり、被告らの担当営業職員(生命保険取扱者)が掛け捨ての定期保険ではなく、入院特約付の終身保険等を勧めたにもかかわらず、Bの強い希望により、本件保険契約(一〇)を除き、いずれも貯蓄性のない掛け捨てのもので、しかも保険期間が短期(五年のものが七件、一〇年のものが三件)の定期保険で、入院給付金特約を付さない内容のものが選択された。

(4)  また、本件各保険契約の合計保険金額は一九億八五〇〇万円(主契約に基づく死亡保険金一三億八〇〇〇万円、特約に基づく災害死亡保険金六億五〇〇万円)であり、養老保険、傷害(損害)保険をあわせた保険金総額は二五億八五〇〇万円(うち原告会社を受取人とする保険金は二三億四〇〇〇万円)に上る。

そして、法人を保険契約者兼保険金受取人、法人代表者を被保険者とする生命保険は、退職慰労金(死亡退職金)、事業保障資金の確保を目的として締結されるのが通常であるところ、右保険金額は前記認定にかかる原告会社の年間売上高の六倍以上に上るものであった。

(5)  原告会社及びBが支払うべき保険料合計額は、平成七年七月には、本件各生命保険のみで月額二〇九万八一七六円となっており、同年九月には、養老保険、傷害(損害)保険を併せて月額二二五万円を超える金額に達していたのであり(ただし、傷害(損害)保険については一時払のものも含まれていた。)、前記認定にかかる原告会社の経営状況等のほか、従前の金融機関からの借入金に対する返済(月額約二〇〇万円)に加え同年九月一九日に東京三菱銀行から緊急融資を受けた前記四〇〇〇万円の返済が、同年一一月から平成八年二月まで毎月二〇日限り一〇〇〇万円宛て予定されていたこと、Bの死亡により平成七年一一月以降の前記各保険料の支払が免除されたにもかかわらず、B死亡直後に前記のとおりE及びC3など近親者からの借入を行っていることからすると、原告会社及びBにとって、平成七年一一月以降も前記各保険料の支払を継続することはかなり困難な状況にあった。

なお、原告らは、本件事故当時、原告会社がNTTの株式を二三株、日立電気の株式を三万株(取得価格の合計は一億〇四三五万九二七五円)を保有していたこと、Bの個人名義の定期預金が一四〇〇万円程度存在していること、Bが自宅及びマンションを所有(共有)していたこと、原告会社は、金融機関からの借入金元金のうち六六七三万六〇〇〇円を返済しており、同額の借入枠が存在していたこと等を理由に、原告会社及びBにおいて前記各保険料の支払を継続することは十分に可能であった旨主張するが、前記認定にかかる原告会社の経営状況等のほか、NTT及び日立電気の株式はいわゆるバブル期の購入分であるため、かなりの評価損が出ていることに照らすと、原告らの指摘する事情のみをもって、原告会社及びBにおいて前記各保険料の支払を継続することが十分に可能であったとはいえない。

(三) 本件事故に至る経緯

(1)  原告会社は、埼玉県住宅供給公社を発注者、三井プレコン株式会社を受注者とし、その子会社である株式会社Zが一次下請となっていた工事の二次下請として、Y団地一二、一三、一四号棟の屋上防水補修工事(以下「本件工事」という。)を請け負い、平成七年一〇月四日から作業を開始しており、同工事は同年一一月二八日に完成、翌二九日に検査の予定となっていた。

また、本件事故当日の平成七年一〇月三一日には、埼玉県住宅供給公社による本件工事の中間検査が予定されていた。

(2)  Bは、原告会社の代表者であり平成七年ころには同人自身が工事現場に赴くことは稀であったが、右中間検査の日は、次男C2が出産のため入院していた妻子を入院先の病院に迎えに行くこととなったため、数日前にC2に代わってBが三男C3とともに右中間検査に立ち会うこととした。

(3)  Bは、本件事故当日、三男のC3と一緒に午前五時三〇分ころに自宅を出て、午前七時三〇分ころにY団地に到着し、C3、発注者である前記埼玉県住宅供給公社のG及び一次下請の株式会社Z株式会社のH(以下「H」という。)の四名で中間検査の方法について打ち合わせをした後、一二号棟の屋上に上がったが、C3は午前九時三〇分過ぎに一四号棟に仕事に行ったことからBら三名で一三号棟、一四号棟を回り、午前一一時ころまでに検査を終えた。

その後、Bは、HとともにY団地内のそばやで昼食をとるとともに、ビール一本を注文して飲んだが、その際、Hに対し、初孫ができ、その成長を楽しみにしていること、仕事から引退した後は、高齢者にボランティアで将棋でも教えたいなどと話した。

Bは、午後一時三〇分ころ、昼食が終わり、Hが「駅まで送る。」と言ったのに対し、三男に送ってもらうからよいと言ってこれを断った。その際、Hは、Bがビールを飲んでおり、飲酒した同人が作業員が仕事をしている場所に行くのは安全上も仕事のモラル上も問題があるとして、同人に対し、仕事場に戻らずに帰るように強く言ったが、BはHの右注意に従わなかった。

(4)  Bは、午後一時二〇分ころ、原告会社の従業員であるIを通じ、近くの店で買物をしていたC3の携帯電話に「社長(B)が(C3を)探している」旨の電話を入れた上で、Y団地の現場に戻ってきた同人と共に一四号棟の屋上に上がり、C3が現場の写真を何枚か撮るのを手伝った。当時屋上には、有限会社Wの従業員であるJ及びK並びに有限会社V左官工業の従業員であるL及びM(以下「M」という。)の計四名の作業員がおり、J及びKは古い防水層を剥がすなどの作業をし、L及びMはモルタル塗装の作業をしていた。

B及びC3は、午後二時二〇分ころ、右四名の作業員にジュースを飲ませようと考え、これを買いに行くため一四号棟の屋上から下りた。その途中でC3が一三号棟で写真を撮り忘れていた旨をBに告げ、両名は一三号棟の屋上に行って写真を撮った。

その後、Bは、C3と共にジュースを買いに行くことを取りやめ、一三号棟と一四号棟の間付近の路上でC3からカメラと黒板を預かった上で、一人で一四号棟に戻った。

(5)  Bは、C3と別れた後、一四号棟の屋上に上り、同所で作業をしていた前記四人の職人に対し何も話しかけないまま、午後二時三〇分ころ、屋上北側の一番東側の出っ張り部分から約一四・一メートル下の地上に転落し、脊髄損傷等により死亡した。

なお、原告らは、Bは一四号棟屋上に上がった後、写真を撮影していたものと推測できると主張し、これに沿うものとして、C3の証人尋問調書(甲三五)には、職人のJがBの転落現場から約二メートル離れた地点に、C3がBに預けたカメラが撮影可能な状態(甲九の一ないし七)のまま落ちていたとC3に報告した旨の記載があるが、BがC3と別れて一四号棟の屋上に上ってから転落までの時間がわずかであること、防水補修工事の現場写真はすでに撮影済みであって、Bが工事現場の状況等を撮影したとは考え難く、南側遠方の景色を撮影するのに北側の出っ張り部分付近でへりを後ろにして撮影し、しかもへりの方向に後ずさりをすることは不自然であること及び同カメラに入っていたとされるフィルムの状態等が明確でないこと等に照らすと、カメラの状態のみをもって、Bが一四号棟屋上で写真を撮影していたものと推測することはできない。

(四) 本件事故現場の状況等

(1)  Y団地一四号棟は、屋上までの高さが約一四・一メートルある五階建ての集合住宅用建物であり、その南側には高い建物がないため、同棟屋上からの見晴しはよく、また、同棟の北側には同じ高さの一三号棟があり、同棟の南側には窓・ベランダが設けられていた。

(2)  一四号棟の屋上は、東西方向が約四六・六メートル、南北方向が約一〇・九メートルのほぼ長方形となっており、北側には、横約二・七メートル、縦約六〇センチメートルの出っ張り部分が五か所あった(Bが転落したのは、前記(三)(5) のとおり一番東側の出っ張り部分である)。

屋上への出入口は東から一番目と二番目の出っ張り部分の中間付近に設けられたハッチ一か所であり、同所から転落地点までの距離は、約五メートルである。

(3)  周囲の防護柵について

屋上の周囲には、高さ一五センチメートル、幅一五センチメートルの雨水止めのへりが設置されていたほか、へりの外側には約二・一メートルの間隔で高さ約一メートルの鉄製支柱が配置され、さらに各支柱を結んで上下二本のロープが張りめぐらされていた。

支柱は、二つの止めネジによりへりの外側に固定されており、下段のロープはへり頂部から約五六センチメートルの高さに、上段のロープは下段のロープからさらに約三五センチメートルの高さに張られていた。そして、上段のロープは支柱に巻き付けるなどの措置がなされているものの、下段のロープは支柱のリングを通しただけの状態であった。

下段のロープについて、通常の状態では弛みは認められないものの、力が加えられた場合にはある程度の伸び(弾力性)があった。

(4)  Bが転落した出っ張り部分はへりから約三〇センチメートル程度の幅に防水用のモルタルが塗られて間もない状態にあり、滑りやすい状態になっていた。

Bが転落した位置付近のモルタル上にはBの左足の靴の踵の踵部分と思われる足跡が踵部分がへりに向いた形で残されていた(ただし、Lが本件事故直後にその足跡上に新たにモルタル塗装を施し補修したことから、埼玉県鴻巣警察署の捜査官による本件事故の実況見分時にはその痕跡は残されていなかった。)。

また、Bが転落した地点付近のへりの上部コンクリート外側角の一部に新しい摩擦の痕跡が残されていた。

(5)  Bが落下した地点には、建物にほぼ接する形で約一・四メートルの幅でさざんかの植え込みがあった。

Bが転落する際に声を発したり、鉄製支柱・ロープに手をかけたりした形跡はなく、Bは、落下地点に、頭部を北側に足を南側(建物側)に向けて仰向けの状態で倒れており、足の先端は建物(一階ベランダ)から、七〇センチメートル離れていた。

(6)  Bは、本件事故により、頸椎横突起骨折、頸椎々体骨折、多発性肋骨骨折、脊髄損傷、左上腕骨折、腰椎横突起骨折、骨盤骨折、両大腿部骨折、両手親指の付け根付近に打撲、左大腿部の内側に擦過傷、左足の甲の部分に打撲の傷害を負ったが、頭部や顔面の損傷は認められなかった。右の負傷状況から、Bは、足先から地面に着地したものと推測される。

(五) 転落態様について

(1)  原告らは、Bが本件事故現場である一四号棟の屋上においてカメラの撮影のためにへりを後ろにして立っていたところ、左足踵部分で塗ったばかりのモルタルを踏んだため滑って尻餅をつく形になり、へりと下段のロープとの間から中腰に近い海老状の姿勢のまま転落したと主張し、甲第一〇号証、第三三号証、第三四号証、第四六号証(Mの陳述書、証人尋問調書、回答書)では、Bの転落状況について「落ちていくとき、顔は南側である屋上を向いており、体は腰が中腰でやや海老のようになった状態で、臀部はへりの立ち上がりのかさ木よりも外側である北に出ており、腰を下ろしそびれたような姿勢に見えた」などとこれに沿う部分がある。

しかし、調査嘱託(埼玉県鴻巣警察署に対する調査嘱託)の結果及び証人D(以下「D」という。)の証言では、埼玉県鴻巣警察署のD警部補が本件事故当日、本件事故現場である一四号棟の屋上で作業していたM及びLの両名からBが転落した時の状況について事情聴取をした際には両名とも作業中でBが落下する状況の目撃はなく、気配で感じたとされていたこと、甲第四六号証では、Mは「私の感じではBは後ろ向きに転落したと思う。」とされているにすぎないことに照らし、Mの右各供述部分はにわかに採用することができない。

また、Bが転落した位置付近のモルタル上にBの左足の靴の踵部分と思われる痕跡が踵部分がへりに向いた状態で残されていたことは前記のとおりであるが(甲第三四号証(Mの証人尋問調書)において、Mはモルタルの上には両足の足跡があったと思うなどと供述しているが、甲第四号証、第一八号証、調査嘱託(埼玉県鴻巣警察署に対する調査嘱託)の結果、証人Dの証言に照らし、にわかに採用することができない。)、右の事実のみをもって、Bがモルタルを踏んで滑り後ろ向きの姿勢で転落したものということはできない。

Bが一四号棟の屋上で写真を撮影していたと推測することができないことも前記認定のとおりである。

(2)  乙第二八号証、第二九号証、第四〇号証(財団法人新日本検定協会作成の転落実験解析報告書、転落実験解析補充報告書、Nの陳述録取書)では、被告らから委嘱された財団法人新日本検定協会が、本件事故現場と同様の状況等を再現し、動的実験用人体模型を使用して行った転落実験の結果及び解析並びにシュミレーションの結果によれば、落下地点に対して後ろ向きに腰掛けた姿勢より下段安全索(ロープ)とパラペット(へり)頂部の間をすり抜ける様な転落初期姿勢(以下「姿勢A」という。)で転落した場合には(転落途中の五階ベランダに前頭部が接触した後)頭から着地し、建物上を後ろ向きに歩行し、パラペットに躓いたり、足を滑らせて転落する場合の初期運動を考慮した数値シュミレーションでは、転落時の回転周期と初速度から着地位置が決まり、足先の着地位置はベランダ端部から水平距離で一・九メートル以上となり、数値シュミレーションにより求められた値と実際の着地位置の差は一・二メートル以上あるから、静的・動的双方の姿勢Aによる場合は考えられないのに対し、下段安全索をくぐり抜けて落下地点に対して前向きにパラペット頂部に腰掛けた転落初期姿勢(以下「姿勢B」という。)で転落した場合には、落下直後に五階ベランダ手摺上に足を接触し、両足を基点とする前向きの回転運動となって足先から着地し、シュミレーションによれば、五階ベランダの離脱角度が九〇度の場合、着地する直前に建物側に向きを変えて足先から臀部、背中、後頭部の順に着地し、仰向けに転倒した姿勢で、足先からベランダ端部までの水平距離は〇・五メートルとなるが、生け垣の影響を考慮すると足先からベランダ端部までの水平距離は〇・七メートルとなることから、姿勢Aで転落した場合には、静的動的双方を考慮しても本件事故における実際の着地状況となることはあり得ず、姿勢Bによる転落姿勢こそが実際の転落状況として最も蓋然性が高いと考えられるとされているところである(ただし、Bが転落する状況を目撃した者はなく、同人がいかなる姿勢で転落したのかは、いずれにせよ推測の域を出ないのであって、転落時の姿勢については様々な形態・物理的条件等が考えられるから、Bが本件事故において姿勢Aのような転落姿勢で転落したものと想定することは困難であるとしても、右実験結果等をもって、Bが姿勢Bの転落姿勢で転落したものとまで認定することはできない。)。

(3)  また、乙第四一号証(P作成の意見書)においては、原告らの主張する転落状況では、本件発見時のような足部が建物から七〇センチメートルも離れ、頭部が遠位にある仰臥位にはならないし、Bに形成される死体所見(両大腿骨頸部骨折や多発性肋骨骨折など)にはならないとした上で、Bに見られる死体所見と発見現場の姿勢や状況などを参考にして、Bがどのようにして五階屋上から転落したのかを考察すると、<1>Bは五階屋上辺縁に張りめぐらされた転落防止用の上下の二本のロープの外側に出て、体の前面を建物側に向けて立ち、両手で上段のロープを掴み、両足同時に後方へはね出るように飛び出してロープを手放し、<2>落下中は両足が先になり、体(頭部、躯幹、下肢)は直立の姿勢でほぼ垂直に一五メートル下の地面に着地した、<3>両足同時に着地し、植込みの中に落下したため、これがクッションとなり、両足関節の骨折は免れたが、両大腿骨頸部骨折と骨盤骨折が生じ、ついでBは強度に尻餅をつき、腰椎骨折、頸椎骨折を生じて頭部は前下方に過屈曲して頸髄損傷を形成し、次の瞬間、上半身は前方に強く屈曲し、両下肢の前面に前胸部が激突し、体は前のめりに「く」の字のように、さらには海老のように強く屈曲して多発性肋骨骨折を生じ、その際、両上肢は前胸部と両下肢の間に挟まって左上腕骨折、左橈骨骨折を生じたものと思われる、<4>その直後、上半身は反動で起こされ、さらに後方へ倒れ、発見時の姿勢である仰臥位となった(その他手足の皮下出血や打撲などは体が海老状に屈曲した際に生じたものと考えられる。)と考えるのが最も蓋然性が高く、Bに見られる両大腿骨、頸部骨折は、高所から墜落した際、ほぼ直立姿勢で垂直に落下し、回転するなど体位の変換のないまま両足同時着地によってのみ形成される所見であり、しかも両足が建物から七〇センチメートル離れ、頭部が遠位にあって仰臥位に倒れ、多発性肋骨骨折を生じて発見されているなどの条件を満足させるには、右に考察したような様相でなければBに見られる死体所見、発見時の状況にはならないとされているところである。

2  右認定のとおり、Bは、多数の保険会社を相手として、集中的に合計保険金額一九億八五〇〇万円(特約に基づく災害死亡保険金を含む)に及ぶ本件各保険契約を締結したほか、合計保険金額四億五〇〇〇万円の傷害(損害)保険に加入していること、そのほとんどが貯蓄性のない掛け捨ての保険であること、加入時の言動、経営状態が厳しく、資金繰りに窮していた原告会社が、月額二〇〇万円を超える保険料の支払を継続することはかなり困難な状態にあったことに照らすと、本件各保険契約は、健全な会社経営者の経営判断の枠内では理解し難い異常なものであるというべきである。

右に加えて、本件事故に至るBの行動について合理的な説明ができないこと、Bが転落する際に声を発していないこと、平成七年ころには工事現場に赴くことが稀であったBが、たまたま次男C2に代わって中間検査に立ち会った後に本件事故に遭遇するというのは偶然に過ぎること、Bの転落態様については、推測の域を出ないものの、少なくとも原告主張のような態様で転落したものとは認定できないこと及び原告主張の態様以外での不慮の事故を前提とする態様は想定できないことを総合すると、本件事故は不慮の事故ではなく、Bが原告会社及びAに巨額の保険金を取得させることを目的として事故死を装って自殺したものと認めるのが相当である。

なお、本件事故当時、事故現場となった一四号棟の屋上では四人の作業員が補修作業をしていたのであり、しかも一四号棟の北側には向かい合うようにして一三号棟の建物があることから、右作業員や同建物のベランダ等から居住者等に目撃される可能性があったこと、原告会社では従業員に対する給与等の支払が遅滞していたことはなく、取引先・融資先等に対する毎月の返済等が滞っていたわけではないこと等の事情も認められるところではあるが、作業員はいずれも下を向いて補修作業をしていたものであり、Bはその作業状況等について十分に認識・把握することが可能であったものであるし、一三号棟の居住者等の目撃の可能性についても一四号棟の屋上では作業員がへりの近くで補修作業をしていたのであるから居住者等にとって右へりの近くでBが行動すること自体が何ら奇異に映る状況ではなかったこと、原告会社に取引先・融資先等に対する債務不履行がなかったとしても、平成七年当時の原告会社の経営状況・資金繰り等は前記認定のとおりかなり厳しい状況にあったこと等に照らすと、右事情も本件事故がBの自殺によるものであるとする前記認定判断を左右するものではない。

また、原告らは、本件事故日は平成七年契約の契約締結日から一年内であり、本件事故がBの自殺によるものであるとした場合には本件免責特約によって同契約に基づく保険金は支払われないこととなること、本件事故当日は、Bの初孫が入院先の病院から退院する日であり、同人はこれを待ち望んでいたこと、Bが転落した地点は植込みのある土の上であったこと、Bは陽気で明るく、余り悩んだりしない性格であり、週に二、三回はカラオケに行ったり、麻雀をしたりしていたこと、本件保険契約(一〇)には、いわゆるリビングニーズ特約が付されていること、本件事故の前にも原告Aらの家族に何ら変わった様子を見せなかったこと等の理由を挙げて本件事故はBの自殺によるものではないと主張するが、仮に原告らが挙げるような事情があったとしても、本件事故がBの自殺によるものであるとする前記認定判断を左右するものではない。

さらに、原告らは、死体見分調書(甲四)及び死亡証明書(甲三七)の記載をもって、その主張の根拠とし、右死体見分調書の作成者である証人Dは、事故死であると判断した旨の証言をするところであるが、Dの証言によれば、Dがそのように判断した理由は、「屋上に人がいる場所である。昼間である。死者はその日に屋上に行く理由があったという状態から」であって、前記認定のとおりの原告会社の経営状態、本件各保険契約の加入状況、事故当日のBの行動及び転落態様等を前提とした判断ではないことが認められ、右死亡証明書の作成者であるQ医師が何を前提として不慮の外因死(転倒・転落)と記載したのかは明らかでないことに照らすと、右記載も、本件事故がBの自殺によるものであるとする前記認定判断を左右するものとはいえない。

二  争点3(一)ないし(三)(契約の有効性等)について

1  平成六年契約について

(一) 公序良俗違反の成否について

被告らは、本件各生命保険契約は、社会的な危険分散のために加入する保険としては明らかに限度を超え、保険金の不法利得目的を達成するための手段として締結されたものであり、かかる契約は、公序良俗に違反して無効であると主張する。

原告会社は、平成六年契約を締結するまでは、その代表取締役であるBを被保険者として加入していた保険は養老保険だけであり、被告らの主張する企業経営者のための必要保障額の算定基準(乙四三)によって試算しても、Bに万一のことがあった場合の原告会社にとっての必要保障額は約三億九一八〇万円から四億五〇〇〇万円程度となるのであって、右養老保険のみでは不十分な状況にあったこと(弁論の全趣旨)、原告会社は同年四月一日から人件費を月額五二万円削減し、賞与も含めると年間で七五四万円を削減したことにより、平成六年契約の年間保険料一〇二七万二六六〇円の四分の三程度を賄えたこと、前年度(平成五年度、第二七期)の売上高は、前々年度の売上高を一億円以上上回り、わずかながら利益を計上していたこと(甲二〇、二一)、原告会社(B)が平成六年契約を締結してから、更に平成七年契約を締結するまでに一一か月ないし一年が経過しており、本件事故が発生したのは平成六年契約が締結されてから約一年五か月が経過した後であること、などの点に鑑みると、この時点で原告会社が平成六年契約を締結することにより、既加入の養老保険と合わせて総額九億五〇〇〇万円(主契約に基づく死亡保険金合計七億円、特約に基づく災害死亡保険金二億五〇〇〇万円)の生命保険に加入することも、あながち不自然不合理なこととまでいうことはできず、平成六年契約が社会通念に照らして許容される範囲を逸脱したものであり、原告会社(B)が保険金の不法利得目的を達成するための手段として締結したものであると断定することはできない。

したがって、被告らの右主張は採用することができない。

(二) 本件解除特約に基づく解除について

被告らは、本件各保険契約はBが専ら不慮の事故を装って保険金を取得せしめんとの意図の下に締結したものであって、おそくとも最終の傷害(損害)保険契約の成立日である平成七年九月二六日の段階で、Bが保険制度を濫用して専ら不当な利得を得んとしていたことは明白であり、これは本件解除特約に定められている「契約を継続することが期待できない」重大な事由に当たる(したがって、被告らがなした本件各保険契約の解除は有効である)と主張する。

しかし、平成六年契約の契約締結時に、原告会社(B)が保険金を詐取する目的または他人に保険金を詐取させる目的等、専ら不当な利益を取得する意図を有していたものとまでは認められず、同契約が未だ社会通念上許される危険分散としての限度を著しく超えたものともいえないことは前記認定のとおりであり、同契約が有効に成立した後にBが更に多額の生命保険契約等を締結した上で、原告らに保険金を取得させるために事故死を装って自殺(事故招致)したとしても(なお、そのような意図の下に締結された保険契約の法的効力が否定されるべき場合があることはいうまでもないところである。)、右事実のみでは、平成六年契約について本件解除特約に定める重大な事由があるものと認めることはできない。

(三) 危険著増による失効について

原告会社は、生命保険及び傷害(損害)保険を集中的かつ過大に付保し、専ら不慮の事故を装って保険金を原告に取得させようとしていたのであるから、最終の傷害(損害)保険契約締結の時点(平成七年九月二六日)で被保険者の責に帰すべき事由により著しく危険が増加し、商法六五六条、六八三条一項により本件各保険契約は失効したと主張する。

しかし、平成六年契約の契約締結時に原告会社(B)が専ら不当な利益を取得する意図を有していたものとまで認められないこと、同契約が未だ社会通念上許される危険分散としての限度を著しく超えたものともいえないことは前記認定のとおりであり、同契約締結後にBが不慮の事故を装って原告らに多額の保険金を取得させることを企図して生命保険契約及び傷害(損害)保険契約を締結したとしても、被告らの主張によっても、Bに右のような意思が生じたのは平成六年契約が締結された後約一年四か月が経過した後のことであり(平成六年契約にも平成七年契約と同様に被保険者が給付責任開始の日から一年内に自殺した場合には死亡保険金を支払わない旨の約定があり(甲二の一ないし四、弁論の全趣旨)、同約定との関係では、契約締結後一年が経過した後にBが自殺した場合には、被告ら保険者は原告会社に対する死亡保険金の支払を免れないことになる。)、しかも、Bの内心に自殺により保険金を原告らに取得させようとの意思が生じたにすぎず、これにより平成六年契約について保険事故発生の客観的危険性が顕著に増大したものとはいえないから、商法六五六条、六八三条一項により平成六年契約が失効したものとはいえない。

したがって、被告らの右主張は採用することができない。

(四) 本件事故は、前記認定のとおり、被保険者であるBの自殺によるものであるから、不慮の事故による傷害を直接の原因として死亡した場合に給付される特約に基づく災害死亡保険金の請求は理由がないことになる。

2  平成七年契約について

平成七年契約の主契約には本件免責特約があるところ、前記認定のとおり、本件事故は被保険者であるBが同契約に基づく給付責任開始日から一年内に自殺した場合(死亡保険金の免責事由)に当たるから、同契約に基づく死亡保険金の請求は理由がないといわざるを得ない。

四  結論

1  第一事件

原告会社の請求は、平成六年契約の主契約に基づく死亡保険金の請求に限り理由があり、特約に基づく災害死亡保険金の請求については、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

したがって、原告会社の被告大同生命に対する請求は、一億五〇〇〇万円及びこれに対する同被告への請求の日から五日が経過した後である平成七年一一月二一日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金、被告朝日生命に対する請求は一億五〇〇〇万円及びこれに対する同被告への請求の日から五日が経過した後である同月二六日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金、被告三井生命に対する請求は二億円及びこれに対する同被告への請求の日から七日が経過した後である同月二五日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金、被告明治生命に対する請求は一億円及びこれに対する同被告への請求の日から五日が経過した後である同月二〇日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度でこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとする。

2  第二事件

被告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由があるからこれを認容することとする。

3  第三事件

原告会社及び原告Aの請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとする。

(裁判長裁判官 一宮なほみ 裁判官 村田渉 裁判官 安田大二郎)

別紙<省略>

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